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新旧が溶け込む暮らし
ものと空間の心地よい関係とは?

新居に暮らし始めると、満を持して新調したものと、
これまで親しんできた大切なものが入り混じっていくのが当然。
それでも心地よい空間を保つにはちょっとしたコツがある。

「Antiques & Art Masa」Masaさんからのアドバイス

新しい、古いに限らず、好きなものに囲まれて暮らすことほど心地よいことはないけれど、それらをより素敵に見せる空間を作ることができたら、ものと暮らす楽しみはもっと深くなるはず。住み替えのタイミングであればなおさら、普段より視野を広げて、ものと空間の関係を考えてみてもいいかもしれない。

京都で骨董店「Antiques & Art Masa」を営むMasaさんは、国内外のアンティークをはじめ古道具やアートを扱いながら、空間設計やインテリアコーディネートの相談も受け付ける。そんな時、どんな提案をしているのか。ものを空間に効果的に配置するためのコツはあるのだろうか。

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Masa:自分は若いころから骨董商をしていますが、この物件に出合ったことで、ものを空間の配置する面白さをより感じるようになりました。ここは、もともと住空間だったんですが、間取りを見た瞬間、どんな雰囲気にしたいかというイメージがパッと浮かび、大工さんと一緒にリノベーションを施しました。すると空間を気に入ってくださった方から、マンションリフォームのお手伝いやインテリアのアドバイスなど、空間にまつわるご相談を受けるようになって。自分の経験をもとにご要望にできるだけ柔軟に応えるようにしていたら、いつのまにか、空間設計や家具のコーディネートの仕事もするようになっていたんです。

「Antiques & Art Masa」は、京都・下鴨神社近くの路地を入ったレンガ造りの建物の一画にある。メゾネットになっていて、吹き抜けのテラスに注ぐ柔らかな光が心地いい。杉材のフェンスを後付けしたというテラスでは、青々とした苔が風情ある景色を作り、しっとりと水をたたえては、涼を呼ぶ。

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Masa:自分は、空間を「無機的なもの」、古いものを「有機的なもの」と捉えています。「無機質な空間に、有機的なものを置く」というバランスが、自分にとってはとても気持ちがいい。自然豊かな土地で育ったせいもあるかもしれません。屋内にしつらえた古材の板や焼物にさえ、草花や森と同じようなリラックス効果を感じるんです。そういうものをインテリアとして飾るのが趣味みたいなところが昔からあって。好きなものを、自分が心地いいように並べているのがこの店です。

ふたつある部屋の一方をモルタルの壁に、他方を土壁にリノベーションし、押入れだったところは、その造りを生かして床の間のような飾れる空間に仕立てている。そこに、江戸、大正、明治と、さまざまな時代の棚や引き出しといった家具、陶磁器や土器などの調度品が、それぞれに合ったバランスでしつらえてあるが、そのバランスには、他のどの店とも違う、特定のリズムがあるように感じられる。

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モルタルの壁に掛けたのは、古い蔵の窓の鉄柵。その幾何学的な造形に、京都出身の陶芸家で、焼物の既成の枠を破る世界観を開拓した八木一夫の前衛的な陶芸作品を合わせたしつらえは、なんともモダン。どちらも道具として使えるものでありながら、アートのように空間をセンスアップしている.

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正面に掛けたのは、小机。もともと漆職人が使っていたものなので、表面に漆の跡が残りいい味わいを見せている。その右と下に配置した古板は、ただ置くのではなく、掛け花入れや壺という立体物を合わせることで心地いいバランスが生まれている。

Masa:この並べ方は、あくまでも僕にとっての正解です。これがすべてではないし、お客様にとっての正解とも限らない。ものを選んだり置いたりという感覚は、とても個人的で直感的なものですよね。店にあるもののなかから「おすすめのものは?」と聞かれた場合は「お客様が欲しいと感じている具体的な形や色、肌感覚を大事にして気に入られたものが、おすすめのものです」とお答えしています。

ものの見方は、人それぞれというのは理解できるけれど、となると、私たちが参考にできる「ものを空間に効果的に配置するためのコツ」はあるのだろうか。

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Masa:アドバイスさせていただく時には、「何が好きで、何が嫌いか」「どんな時に心地いいと感じるか」だけうかがいます。例えば、虫が嫌いというお客様がいたら、有機的なものといっても、植物や土味の強いものは心地よく思われないでしょう。それよりも、人の手をかけた古いもの、例えば、絵付けの焼物や職人仕事が光る古道具をおすすめしたほうがいいかもしれない。自分自身の好みでいえば、肌合いは有機的だけれども、造形がポップなものを取り入れることが多いですね。今回、壁に掛けている造形物は、自分にとってポップなもののたぐいです。

そういわれてみると、グラフィカルな鉄柵しかり、ひょうたん型の花器しかり、壁掛けの屏風風パネルしかり、個性的な絵柄やデザインだ。

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Masa:ものを空間に置く時に大事なのは、どれだけその「もの」を好きかではないかと思います。自分は古いものが好きですが、別の人にとっては、それがキャラクターものの何かかもしれないし、ぬいぐるみかもしれない。ぬいぐるみを一箇所にぎゅっと集める方がいますが、その様を「すごく抽象的だな」と思ったことがあるんですよね。そういう飾り方に触れた時に、好きなもののジャンルはもちろん違いますが、行き着くところは一緒というか。好きであれば、誰でも美しく配置する知恵を発揮できるのではないかと思ったんです。

好きであることは「よりよく見せたい」というモチベーションにつながる。それに加えて、Masaさんにとっての「ポップなアウトライン」のように、自分にしっくりくるキーワードをつかむことができれば、ものの置き方のアイデアは自然と浮かんでくるのかもしれない。

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Masa:例えば、魚は本能的に釣り人のルアーに反応してしまうでしょう? 理屈よりそういう衝動を大切にしてほしいですね。本能に重きをおくと、いろいろなことが楽しくなって、四角四面なやり方ではなく、自分なりの遊び心も生まれてくると思いますよ。そして、遊ぶというのは、住空間だけに限らないと思います。例えば、折敷という限られたスペースの上で「こっちかな、それともここかな?」と食器の配置をあれこれ工夫すること、これも空間を遊ぶことのひとつですよね。折敷の上の置き方のリズムは、その人が部屋のなかに家具や調度品を置く時のリズムに、必ず似ているはずなんです。

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ところで、入居したばかりのマンションでは、それまで愛着をもって使ってきた年季の入ったものが、どこかよそいきの顔をしてしまうことがある。そんな時、どのように空間に溶け込ませればいいのだろう。

Masa:モルタルや白壁の真新しい部屋にこれまで使ってきたものを置く時、違和感を感じることは確かにあるかもしれませんね。そういう時は、新いものと古いものをつなぐ何かが必要なんだと思います。モルタルの壁に掛けているのは、古い屏風をパネルにしたものですが、古さとモダンさが相まって、ピカピカの壁と使い込んだものの間に横たわる時間を差を埋めることができているような気がすることがあります。いま現在の美しさを示す草花も、時間の差を埋めるもののそのひとつになると思いますよ。

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新居に足を踏み入れたら、まずは好きなものをテーブルやデスク周りなど小さな範囲に集め、思うままに配置してみよう。そうして好きな配置のリズムが見えたら、次は、新しいものと古いものの間をつなぐ「いまを感じさせるもの」は何かを意識してみよう。ものと空間の心地いい関係を作るヒントは、いつも自分のなかにある。今日の自分、明日の自分の気持ちに、好きなものを重ね合わせていく時間を持つこと。そうすれば、空間はおのずと心地いいものになっていくのだ。

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Antiques & Art Masa

お茶やお酒を楽しむ為の器、花を添え遊べる道具、またはその生活を存分に楽しむことのできる空間に合った調度品を中心に並べ、空間のしつらえとともに提案する京都の骨董店。空間設計などの相談も受け付けている。

  • edit&text 衣奈彩子
  • photos 米谷享