2025年から新築住宅にも省エネ基準義務化。省エネ住宅を選ぶメリットとは?

不動産専門知識

2025年までに新築住宅、特に一戸建てのような小規模な建築物にも、省エネ基準への適合が義務化されることになりました。では、マイホームを考える人にはどういう影響があるのでしょうか。本記事では、省エネ基準に適合した住宅における生活や税制面でのメリットを解説。将来的にマイホームを取得しようと考えている人も、住み替えを検討している人におすすめの内容となっています。


省エネ基準義務化について

「2050年カーボンニュートラルの実現」「2030年度温室効果ガス46%排出削減」という政策目標のもと、住宅の省エネ基準についてはも大きく変わろうとしています。そもそも省エネ基準とは何なのか、概要について解説します。

省エネ基準とは

「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」という法律により、マンションや一戸建てを含む建物には、規模や地域によって、求められる断熱性能が決められ、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく住宅性能表示制度では、建物の断熱性を客観的に評価し「断熱等性能等級」を付与する仕組みがあります。

つまり、住宅の性能は一定程度保証されているということ。

2022年度までの日本の省エネ基準では、下表の通り「平成28年基準(断熱等級4)」が最高等級で、住まいを新築する際のひとつのガイドラインとなっていました。

断熱等性能等級(~2022年3月末)

等級4 平成28年(2016年)省エネルギー基準
等級3 平成4年(1992年)省エネルギー基準
等級2  昭和55年(1980年)省エネルギー基準
等級1  無断熱(等級2に満たないもの)

しかし、この基準で最高等級となる「H28年基準(等級4)」は、平成11年に定められた「次世代省エネ基準」とほとんど同じ、つまり日本の断熱基準は23年前のものがほぼそのまま維持されているということ。
また、守らなければならない「義務」ではなく、言わば努力目標のような位置づけだったため、等級4を取得している既存住宅は1割程度。日本の住宅の断熱性能は先進国でも最低基準と言われています。

省エネ義務化の背景

住宅の省エネについては、これまで何度も議論を重ね、その度に法改正が見送られてきた経緯がありますが、世界的な脱炭素の流れの中で、日本も「2050年カーボンニュートラルの実現」「2030年度温室効果ガス46%排出削減」という政策目標を掲げました。

国土交通省発表の今回の改正について、一部抜粋してご紹介します。

・全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け

・トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充

・販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進

・市町村が再生可能エネルギー利用促進区域を決定

・上記区域内にて、 建築士から建築主へ再エネ設備の導入効果の説明義務を導入

出典:国土交通省 報道発表資料(一部抜粋)

地球温暖化の原因の一つといわれる二酸化炭素の我が国における2020年度分の排出量をみると、全体の約16%が家庭からの排出分であり、一世帯あたりの二酸化炭素排出量は約3,900kg-CO2。
その内訳は、照明・家電製品などからが約30%、自動車からが約23%、暖房からが約16%、給湯からが約15%となっています。

つまり、日本における省エネ対策のひとつとして、家庭部門におけるエネルギー排出量を削減するため、省エネ基準の見直しを行い、その基準に適合する住宅を増やしていく方針があるのです。

省エネ住宅とは

経済産業省・資源エネルギー庁による省エネ住宅の定義とは、「暖冷房のエネルギー消費を抑えることのできる住宅のこと」を指します。
「断熱」「日射」「気密」の観点で性能の高い住宅設備や建築資材を用いることにより、夏は涼しく、冬は暖かい住環境が実現し、人間にも環境にも配慮した省エネ住宅が誕生します。

省エネ住宅の基準

省エネ性は「外皮性能」と「一次エネルギー消費量」のふたつの指標で評価されます。
「外皮性能」とは、建物の外回り(壁・床・天井・窓など)の省エネ性能のことを指し、「一次エネルギー消費量」とは住宅で使われている設備機器のエネルギーを熱量のこと。
両者とも、計算式に基づいて算出され、値が小さいほど省エネの程度は大きいとされています。

外皮性能
住宅の外皮性能は、外皮平均熱貫流率を表す「UA値」(ユー・エー)と冷房期の平均日射熱取得率「ηAC値」(イータ・エー・シー)により構成され、いずれも、地域区分別に規定されている基準値以下となることが必要。
「UA値」は下記の計算式で算出します。

UA値=熱損失量(w/k)÷外皮面積(㎡)

これは、住宅の内部から床・外壁・屋根・天井や開口部などを通過して、外部へ逃げる熱量を建物外皮全体で平均した値で、数値が低いほど断熱性が高いことになります。

省エネ住宅の種類

「省エネ住宅」には、さまざまな種類があり、どれも地球環境に配慮し、CO₂の排出削減を目的とした住宅です。
それぞれ認定条件が異なりますが、主な5つの省エネ住宅について紹介します。

種類 概要
ZEH住宅 家庭で使用するエネルギー量を抑えながら、太陽光発電などの創エネ設備を利用することで、年間の一次エネルギー消費量を概ねゼロにする住宅のこと。
LCCM住宅 「ライフ・サイクル・カーボン・マイナス」の略で、建築段階から生活過程を経て、最終的にその住宅を解体・処分するまでに排出されるCO₂を削減する住宅のこと。
長期優良住宅 2009年6月に制定された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて、国に認定された住宅のこと。
認定低炭素住宅 地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らすための仕組みや設備を導入した住宅のこと。
スマートハウス 太陽光発電で電気をつくり、蓄電池に電気をためて、IT技術の利用によって電気を賢く使う省エネ住宅のこと。

長期優良住宅は2022年10月の制度改正で条件が変わり、断熱性能が4から5へ、一次エネルギー消費量は5から6に上がり、ZEH基準と同等のレベルになりました。

省エネ住宅かどうかで変わるポイント

世界的な流れにより、環境に配慮した省エネ住宅の供給が今後ますます増えるでしょう。
では、マイホームの取得を考える際に、省エネ住宅を選ぶことでどんなメリットがあるのか解説します。

光熱費などのライフコスト

四季のある日本では、一般的な地域でも空調なしで快適に過ごせるのは4~5ヶ月程度、1年の2/3は冷暖房を使用しています。
省エネ住宅を選ぶことで、冷暖房にかかる光熱費を抑えられることがメリットです。
また、太陽光パネルなど組み合わせることで、自宅で使用するエネルギーを創出することができれば、さらに光熱費削減に役立ちます。

現在の不安定な市況の影響で、エネルギー価格の上昇が続いていることを考えると、省エネ住宅を選択することで長期的にライフコスト削減につながるでしょう。

お金(住宅ローン・補助金・減税)

断熱性能の高い省エネ住宅は、住宅ローンや税制優遇などお金の面でもさまざまなメリットがあります。

①住宅ローン金利 

フラット35は省エネ基準の改正に先駆けて、性能の高い住宅に対する優遇ローン「フラット35S」の基準の強化を発表。
2022年10月から、これまでの「金利A」「金利B」プランに加え、上位の「ZEH」プランが新設されるとともに、金利A・Bプランの断熱基準も引き上げられることになります。

フラット35Sの金利優遇と省エネ要件は以下の通り。
断熱基準全体が引き上げられ、省エネ性能が高い住宅ほど金利優遇が大きくなります。

■フラット35Sの金利優遇と要件

出典:住宅金融支援機構の資料より省エネ性の部分のみ抜粋。詳細はフラット35の公式サイト等をご確認ください。

②税制優遇(住宅ローン減税)

2022年度から4年間の延長が決まった「住宅ローン減税」。年末の住宅ローン残高の0.7%が10~13年間にわたり減税されるという非常にメリットの大きい制度ですが、住宅ローン残高の上限(借入限度額)は、購入する住まいの省エネ性能によって異なります。

以下の通り、省エネ性能の高い住宅ほど限度額が高く(控除額が大きく)なっており、2024年以降の入居で省エネ性能の低い住宅は、原則として住宅ローン減税の対象外となります。

■住宅ローン減税の借入限度額(新築住宅)

③補助金(こどもみらい住宅支援事業

2022年度に始まった「こどもみらい住宅支援事業」は、⼦育て世帯や若者夫婦世帯が注文住宅を建てる場合や新築住宅を購入する場合に補助金が支給される仕組みです。
そしてこの事業でも省エネ性能が高い住宅ほど補助金額が高くなっています。

■こどもみらい住宅支援事業の省エネ要件と補助金額

省エネ要件 補助金額
ZEH住宅(断熱等級5・一次エネルギー等級6) 100万円
長期優良住宅・低炭素住宅・性能向上計画認定住宅 80万円
省エネ基準適合住宅(断熱等級4・一次エネルギー等級4) 60万円

出典:こどもみらい住宅支援事業の概要|こどもみらい住宅支援事業公式サイト

家の資産価値

省エネ住宅は将来的な住まいの価値にも影響を与える可能性も。

省エネ基準への適合が義務化されると、これまでの最高等級だった「等級4」は、一転して「最低」等級になり、適合していない住宅の価値は相対的に低く評価されることになります。

前例を挙げれば、1981年(昭和56年)に、耐震基準が大きく改正されたことにより、それ以前の建物を「旧耐震」、それ以降の建物を「新耐震」と区別するようになりました。
現在では「旧耐震」の建物は買い手がつきづらい、ローンが通りにくいなどの事情から、相場より安く取引されることも少なくありません。

(注:旧耐震の建物でも現行の耐震基準を満たし、通常の相場で取引される物件もあります)

今後、性能の高い建物は資産価値を維持できる一方、性能の低い建物は相場以下の価値で評価されてしまう可能性もあります。
省エネ住宅を取得することは、住まいの「資産価値」の面でも大きな影響を生むでしょう。

コーポラティブハウスと省エネ住宅の関係

 

注文住宅のように自由設計が可能な新築マンションであるコーポラティブハウス。
制度改正でどのような影響があるのでしょうか。

新築住宅にあたるコーポラティブハウスにも省エネ基準適合は義務化

完成したものを購入する分譲マンションとは異なり、コーポラティブハウスは入居希望者が集まって、建設組合を結成し、直接ゼネコンや設計事務所に発注することでマンションを建てるしくみです。

昨今のコーポラティブハウスは、事業企画会社が入居者を集める時点で、建物全体の構造やデザイン、性能を検討していることが多いため、省エネ基準の義務化は、新築マンションにあたるコーポラティブハウスも対象となり、企画段階で省エネ性能を満たしていく必要が増えるでしょう。

自由設計の結果、省エネ基準を満たさないことも

窓の大きさや位置も自由に設計できるコーポラティブハウスにおいて、大きい窓を採用したり、ガス式の床暖房を採用した場合、個々の住宅において、省エネ基準を満たさない可能性も。

ライフコストや税制優遇を考えると、省エネ住宅にすることである程度のメリットは享受できますが、自らの住みやすさとの兼ね合いになりそうです。
自由設計をする段階で担当の設計士に相談してみるのも良いかもしれません。


まとめ

2025年からはじまる、新築住宅の省エネ基準適合義務化について解説してきました。
省エネ住宅に適合する性能基準が引き上げられ、人と環境にメリットある住宅の供給が今後進みそうです。
マイホームの取得を考える人は、まずは立地や価格、家の種類で検討するのと同時に省エネ住宅か否かもチェックし、長期的に見て賢い選択ができると良いですね。

 

執筆者:株式会社コプラス

渋谷区にあるまちづくりが得意な不動産コンサルティング会社。コーポラティブハウスの企画をメイン業務としながら、家づくりに関する知識をお届けするデジタルコラム・「CO+コラム」も運営しています。

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この記事を書いた人

株式会社コプラス

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