マンションの大規模修繕とは?コーポラティブハウスのような小規模の場合も解説。
マンション管理組合理事を悩ませる大規模修繕問題。本記事ではマンション入居者や管理組合理事に向けて、マンションの大規模修繕について解説します。管理会社にまかせきりではなく、マンション全体で当事者意識を持つことが自分の資産を守ることへの第一歩かも。コーポラティブハウスのような小規模マンションの大規模修繕の場合の考え方も紹介します。
もくじ
マンションの大規模修繕とは?
大規模修繕とは、経年に伴い劣化したマンションの建物や設備を定期的に修繕すること。
特に、大がかりな建物本体(躯体)を維持するための修繕や共用部分の改修を指します。例えば、足場を掛けるような外壁補修のほか、防水工事や、シーリング工事、鉄部の塗装工事、給排水管工事などを実施します。一般的には、13年から16年程度の周期で行われることがほとんど。
管理会社に管理を委託している場合は、管理会社より「長期修繕計画」の提案があり、管理組合の承認を持って修繕計画を実施していきます。
マンションの大規模修繕の必要性
そもそも、マンションの大規模修繕はなぜ必要なのでしょうか。その理由には、大きくは次の2つが挙げられます。
建物や設備は時間の経過とともに劣化するため
国土交通省によると、鉄筋コンクリート造のマンションの寿命は平均で68年、物理的な寿命としては最長で100年以上といった調査結果がまとめられています。
しかし、その過程では、風雨や日射の影響を受け年月とともに少しずつ経年変化が進みます。こうした経年劣化による影響をできるだけ抑え、建物を長く安全に使っていくために、定期的に建物をメンテナンスする必要があります。
特に建物を守る上で一番大切なのは、コンクリート内部の劣化を抑制すること。
コンクリート内部の鉄筋がさびると建物の強度が弱くなります。通常は空気に触れる建物の外部から内部にゆっくりと変化が進んでいくものの、ひび割れや防水層の亀裂などがあると水や空気がコンクリート内部に入り込み劣化が進行する原因に。
こうした内部に至る深刻な劣化を予防するためには、劣化が軽度のうちに発見して直すことが重要であり、大規模修繕工事では、事前調査で外壁箇所を確認し、対象箇所が見つかった場合は足場を設置して補修を実施します。
資産価値を守るため
大規模修繕工事を適切な時期に行うことは、マンションの資産価値の低下を防ぐことにも繋がります。適切に大規模修繕工事をしてきたマンションとそうでないマンションでは、年数が経つにつれて見た目や快適性の面で差が広がります。
さらに、防犯設備の強化やバリアフリー化など新しいライフスタイルに対応した改修工事も、快適性の向上に伴い資産価値を高めることにつながります。
大規模修繕を行わずにいると、雨漏りや設備故障によって生活に支障をきたしたり、見た目やイメージが悪くなったりすることがあります。また、故障や不具合だけでなく、付属する設備の仕様が古くなり、生活に不便さを感じることにも。
結果的にマンションの住宅としての暮らしやすさが損なわれると、資産価値が下がり、将来売却や賃貸に出す際に、価格や賃料を低く設定さぜるを得ない可能性もあるでしょう。このようなことを防ぐためにも、大規模修繕は非常に大切な意味を持っています。
マンションの大規模修繕の3つのポイント
マンションの大規模修繕を考える上でのポイントを以下に解説します。
適切な修繕を実施するためには、目的や工事内容をきちんと把握しておくことが重要です。
費用
※国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」をもとに筆者が作成
国土交通省によると、大規模修繕工事の戸あたりの工事金額は100~125万円の割合が最も高いという調査結果がまとめられています。マンション全体の金額だと中央値で7,600万円~8,700万円程度。平均値で1億1,000万円~1億5,000万円になる計算です。
これらの費用は、区分所有者が一括で支払うことはなく、一般的にはマンションの管理組合が「修繕積立金」として、毎月徴収して積み立てている費用でまかなわれます。
出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
工事期間
マンションの大規模修繕工事にかかる期間は、「計画から着工まで」と「着工から工事完了まで」の大きく2つに分けられます。大規模修繕にあたっては共用部分の工事がメインになるため、住人間での合意形成が必要です。
例えば、着工後は作業員や車両などが頻繁に出入りをすること、建物周囲に足場が建ち洗濯物干しや窓開け、バルコニーの使用などに制限がかかること等、日常生活に影響が出るでしょう。
住人の同意を得るためには工事計画を作成の上、説明会を開催し、理解を得る必要があり、一般的に計画から着工までは1~2年程度かかると言われています。その後の着工から工事完了までは、50戸以下の小規模マンションは3~4カ月程度、50戸以上の大規模マンションなら4カ月以上が目安とされています。
周期と回数
大規模修繕工事を実施する時期や回数に決まりはなく、基本的にはマンションの劣化状況に応じて管理組合が主導して実施するかどうかを判断します。
国土交通省が発表している「長期修繕計画作成ガイドライン」で示されているように、一般的な大規模修繕の周期は12~15年周期。これは、新築時の建材の保証期間が、10年程度で設定されているケースが多いことも要因のひとつです。
鉄筋コンクリート造のマンション寿命から考えると、3回以上は必須の計算になります。
マンションの大規模修繕の流れ(全6ステップ)
では、実際のマンションの大規模修繕の流れを紹介します。
大規模なマンションの場合は、管理組合の中に有志の「大規模修繕委員会」を発足させて進める形式をとる一方、中規模以下のマンションでは、マンションの管理組合の運営主体となる「理事会」が主導し、委託しているマンション管理会社と相談しながら進める形式が一般的です。
以下では、大規模修繕委員会を発足した場合の流れを、6つの過程に分けて紹介します。中規模マンション以下の場合は、ステップ2からのスタートとなります。
[ 1 ]大規模修繕委員会を発足する
大規模修繕計画にある予定時期の数年前から、マンションの管理組合が大規模修繕委員会への参加希望者を組合員に向けて募り、大規模修繕委員会を発足します。マンションの区分所有者である管理組合員ならば、誰でも参加資格があり、管理組合の中に理事会とは別に組織されることが一般的です。
しかし、希望者がいない場合や管理組合が不要と判断するなどの理由で大規模修繕委員会が発足されない場合は、マンション管理組合の中の「理事会」を中心に、管理会社と相談・協力しながら大規模修繕に関する方針や計画を練り、計画案や予算の作成をマンション管理会社に依頼することになります。
[ 2 ] 物件の診断を行い、劣化状況を調査する
つぎに、マンションの「建物調査」を実施します。建物調査で行うのは、建物や共用設備の劣化状態や改修・更新の必要な箇所についての現状確認です。修繕や更新が必要な箇所の特定、その最適な修繕方法の提案、提案に基づくおおよその予算(見積もり)を、報告書や提案書という形で依頼する業者に提出してもらいます。場合によっては、修繕や更新の必要な箇所の特定や修繕方法の提案のみを依頼するケースも。
建物調査は、大規模修繕専門のコンサルタント会社や建設会社、マンションの施工会社などによって行われます。調査の結果や修繕・更新の提案内容に応じて大規模修繕の見積が変動するため、複数の調査見積もりを取り、調査の依頼先を決定することが重要です。
[ 3 ] 大規模修繕の方針を決定する
建物の状態を把握したら、次は大規模修繕の方針と計画を決定します。
建物調査結果や提案書や見積もりを参考にして、修繕や更新の対象となる箇所の工事内容や予算を話し合っていきます。なお、計画に対して積み立てられた資金が足りない場合は、修繕箇所を予算の範囲内に絞り込むか、どうしても修繕が必要な箇所がある場合には、一時金徴収や修繕積立金の値上げ、金融機関からの借入を検討する必要があるでしょう。
資金調達方法について合意形成できない場合は、大規模修繕自体を延期する、という方法もありますが、長期的な目線で見ると問題を先送りしているだけになるため、なるべく避けるのが良いでしょう。
[ 4 ] 見積もりを依頼する
大規模修繕の基本的な方針と計画が決定したら、つぎは正式な見積もり依頼。ここでも複数の会社から見積もりを提出してもらい、再度施工箇所の詳細、施工方法や施工期間、費用などを比較するのが一般的です。
[ 5 ] 工事会社を決定する
工事会社を決定する際は、大規模修繕委員会あるいは理事会が、提案された修繕内容と見積もり金額を精査し、1社ないし2社の候補を選定して、マンションの区分所有者全体の総意を決定するため管理組合総会を開催します。
【管理総会内容】
・依頼先候補の工事会社、見積もりの内容(修繕内容、工事体制や工期、工事費用など)を提案
・質疑応答
・決議を取る
・規約で定められた組合員の賛成が得られれば、大規模修繕工事の委託先が決定
・委託先の決定後、正式に管理組合と工事会社の請負工事を契約
議決に必要な賛成者数は、共用部分の軽微な変更の場合は過半数、重大な変更の場合は3/4以上の賛成が必要です。
[ 6 ] 大規模修繕工事を実施する
工事会社との契約締結後、大規模修繕工事が実施されます。工事にかかる期間の目安は、マンションの規模によって大きく変わり、50戸程度のまでの小規模マンションで約2か月~3か月、それ以上の中規模マンションでは約5か月~6か月程度です。しかし、大規模なマンションや修繕内容が多岐にわたる場合は、全体が完了するまでの工期が1年に及ぶ場合もあります。
大規模修繕工事は、施工する工事会社やコンサルタントなどから提出された工事計画をもとに行われます。大規模修繕委員会(委員会が設置されない場合は理事会)のメンバーは、大規模修繕工事が工程の通りに行われているか、進捗状況を確認する必要があります。または、大規模修繕の管理を、専門のコンサルタント会社や管理会社に委託している場合は、途中経過の報告を求めることができます。
コーポラティブハウスの大規模修繕について考える
これまでマンションの大規模修繕の基本的な項目について紹介しましたが、ここからは小規模マンションにあたるコーポラティブハウスのケースを考えてみましょう。
小規模マンションであることのメリットとデメリット
コーポラティブハウスとは、入居希望者が集まって建設組合を結成し、新築のマンションをつくる仕組みのこと。企画開始から約2年と時間はかかるものの、室内を自由に設計できたり、価格が透明化されていたりする点がメリットです。人気のエリアに企画されることが多いため、マンション規模は10戸前後と小規模の場合がほとんど。
コーポラティブハウスのような小規模マンションの大規模修繕工事は戸当たりの修繕積立金の負担が大きい点はデメリットになるでしょう。
ただし、世帯数が少ないことから、合意形成がしやすく、物事を進めやすいというメリットもあります。適切な準備期間をとり、適切な対策を講じれば効率的に大規模修繕工事計画を進めることができるでしょう。
工事施工会社の決定方式の違いを理解して、適切な方を選択
小規模マンションの場合、戸あたりの修繕積立金の負担額が大きいものの、意思決定が早く物事を進めやすい状況を踏まえた上で、工事施工会社の決定方式の違いを理解しましょう。
設計管理方式と責任施工方式
「設計管理方式」とは、第三者(専門家)であるコンサルタント会社に、調査診断、改修設計、工事施工会社選定補助、資金計画、工事監理などを委託する方式。
「責任施工方式」とは、マンション管理組合と工事施工会社が工事請負契約を結ぶ方式。この場合、調査診断、改修設計、資金計画から実際の工事までの全てをこの1社がおこないます。
もともとは、マンションの管理会社にすすめられた工事施工会社から見積もりをもらったり、複数社から相見積もりをもらって工事施工会社を決定する責任施工方式が一般的でした。しかし、相見積もりの結果として、安価な施工代金で請け負う工事施工会社の台頭により、管理組合負担が増える、手抜き工事が行われる、などの事例が発生したため、昨今では設計管理方式が主流となっています。
それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
設計管理方式のメリット・デメリット
メリット
・調査診断、改修設計、資金計画、工事監理など窓口一本化による管理組合員の負担軽減(クレームを含む)ができる。
・毎年変わる理事会への引き継ぎと情報共有ができる。
・設計段階で管理組合の意向を取り入れやすい。
・設計と施工が分離しているので、工事施工会社選定が公正・公平に実施できる。
・コンサルタント(専門家)による工事監理を行うので、品質の厳格な監理が可能となり、手抜き工事等に対する抑止力となる。
・第三者を入れる事で、全組合員に対して透明性が担保出来、合意形成が容易になる。
デメリット
・コンサルタント費用が発生する。
責任施工方式のメリット・デメリット
メリット
・調査診断、改修設計、工事実施までを全て一社に任せられる。
・窓口一本化による、理事会運営の簡素化と合理化を図れる。
・コンサルタント費用が発生しない。
デメリット
・工事施工会社選定時に数社とやり取りをするため、管理組合員の負担が増える。
・第三者(専門家)の検査等のチェックがないため、手抜き工事などの品質低下や一部の区分所有者との利害関係など公正性・公平性が保ちにくい。
・工事施工業者の技術力、信頼性、会社財務内容等により予想と大きく異なる結果になり易い。
・工事施工時の監理がない為、管理組合での検査が必要。負担が増える。
・相見積もりをしない場合、割高の傾向。
小規模であることを逆手に取ろう
コーポラティブハウスのような小規模マンションの場合は、合意形成が図りやすいことを逆手に取って、大規模修繕内容を確認し、予算に余裕がある場合は設計管理方式をとり、なるべく費用を抑えたい場合は、責任施工方式をとるなど、適宜判断していきましょう。
なお、先述の国土交通省のとりまとめによると、戸数が少ないほど責任施工方式を選択する割合が高くなっており、20戸以下の小規模マンションでは、半数近くの44.0%が責任施工方式を選択しています。
さくら事務所のように、小規模マンションならではの特徴を考慮した大規模修繕工事サポートサービス「大規模修繕工事セカンドオピニオン(小規模マンション向け)」を行っているコンサル会社もあります。戸当たりの負担が大きいことも考え、メールや電話などのサポートをメインにした低額のセカンドオピニオンサービスのため、利用してみてもいかがでしょうか。
まとめ
本記事では、大規模修繕を迎えるマンションの入居者や管理組合理事を対象に、マンションの大規模修繕の考え方を解説してきました。マンションの区分所有者には議決権が与えられているので、重要な決議の際には、ぜひ意思を表明したり、協力するようにしましょう。
いずれにしても当事者意識を持って取り組むことが、自分の安全安心な生活や資産を守ることにつながりますね。
執筆者:株式会社コプラス コーポラティブ事業部 大澤(宅地建物取引士)
渋谷区にあるまちづくりが得意な不動産コンサルティング会社でコーポラティブハウスの企画運営を担当しています。同時に家づくりに関する知識をお届けするデジタルコラム・「CO+コラム」も運営中。
◆コーポラティブハウス特設サイト https://cooperativehouse.jp/
◆お宅訪問インタビュー動画: https://cooperativehouse.jp/casestudy/
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この記事を書いた人
株式会社コプラス